講演 『人間親鸞のすがた』(1)(五木寛之)
こんにちは。五木寛之です。
何だか、圧倒されそうな雰囲気なんで、私がお話をするような場
とはずいぶん違うもんですから、ちょっと戸惑っておりますが、
今日は親鸞フォーラムにお招きを受けまして有難うございました。
普段はどちらかと言うと、学校とか、図書館とか、あるいは
地方のお寺とか、そういう場所でお話をすることが比較的多い
ものですから、こんな東京のど真ん中の、金属とガラスで
できたようなすごいホールでお話をいたしますと、とても
落ち着かないところでございます。
それにしても今日はいいお天気で、今年は関東地方、ほんとに
雨が多くてですね、鬱鬱とした日を過ごしていたんですけれども
私のお話がどちらかと言うと全体に暗くなりがちなものですから、
天気が悪いとお帰りになる方が暗天の下を溜息をつきながら
お帰りになるということで、今日だと思いきって暗い話ができそう
な…感じのする、いいお天気でホッといたしました。
最初にお断りしておきますけれども、 私はもちろん学者でもなく、
評論家でもなく、研究家でもなく、単に大衆的な娯楽読み物と
言いますか、そういうことを書いていくことを、自分の生業
(なりわい)とし、そしてそれを志(こころざし)として、
これまでやってきた人間なんです。
ですから、ここで今日、フォーラム、って名前がついただけで、
何か大丈夫かなぁ、って昨夜から不安になりまして…..ですから
今日お話しをすることをですね、あまり真剣に受けとめないように
あの、雑に… ひとつひとつの事柄をつきつめて追求なさらないで
いただきたいと思うんですね。
真宗の方たち、および真宗に関心をお持ちの方たちは日本の中でも
非常に知的レベルが高くって、しかも真面目な方が多いんです。
真面目な方だけに理屈に合わないことが許せない、ということで
私がいい加減な話をしますと、しょっちゅうお手紙をいただいたり
お叱りを受けたりすることが専ら多いんです。
歳もとってきましたし記憶違いもあります。言い間違いもありますし
固有名詞が出てこないときもありますし、いろんなことがありますが
気になさらないで…あの…そうか、あぁいうことを言いたいんだなぁ
という私の気持だけをですね、汲み取っていただいて…あとから
細かなご指摘などいただくともう気が重くなりますから、ぜひ右の耳
から左の耳へ聞き流して、この後にちゃんとした形のシンポジウムが
ありますから、そちらで知的好奇心を満足させていただきたいという
ふうに思っております。
私はもういつも普段の生活というのは、朝日を拝んで床に就き、午後
目覚めるという、そういう暮らしを20年続けてきておりまして、
今日など午前中に起きる、というんで決死の覚悟でここに参りました。
まだ半分眠っているものですから、どういうお話ができるかわかり
ませんが、ひとつよろしくお願いいたします。